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プロフィール
津田寛治(つだかんじ)
1965年福井市生まれ。大東中学校、福井高校を経て映画俳優の道を目指し上京。アルバイト先の喫茶店に訪れた北野武に売り込み、1993年『ソナチネ』で映画デビュー。翌年の竹中直人監督作品『119』には森下寛役として出演。その後映画を中心に活動を続け、2002年『模倣犯』、『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL』、『Dolls』と合わせて第45回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。2012年にはTBS系ドラマ『運命の人』、フジテレビ系ドラマ『リーガル・ハイ』などにも出演。
このシンポジウムの出演依頼を頂いたのは、当日から3ヶ月ほど前。僕がネット上に公開しているアドレスに直接、依頼があった。「はじめてメールします。福井工業大学の木川と申します」という、まるでファンメールのようなタイトルがついたそのメールの内容は、なかなか興味をそそるものだった。
福井工業大学でデザインを教えている木川さんは「妄想(もうぞう)福井プロジェクト」というものを立ち上げて、福井のこれからの都市デザインを学生さんも含め皆で考えていこうとされているとのこと。その一環として福井駅前をどう活性化していくかを「歴史・日常・映画からみる街の姿」といった名目でディスカッションする。
映画という言葉が心に引っかかった。街を盛り上げるのに歴史と日常を考えるのは分かるが、なぜ映画?と疑問に思いながらも、なかなか面白い観点だなあと食指が動いた。
福井に限らず街が元気だった頃はその街にある映画館も賑わっていたはずだ。そこでかかる映画は家族みんなで物語に陶酔でき、ほんの2時間ばかり日常を忘れることが出来るものだったんだと思う。見知らぬ土地で起きる奇想天外なストーリー。観終わって映画館を出れば、面白かったね、僕はあの登場人物が好きだ、私はあのシーンが好きよとワイワイ語り合え、余韻を味わいながら家路につくような映画鑑賞。
今はその役割をショッピングモールが担っている。福井駅前の繁華街を遠巻きにするように林立するショッピングモールには、家族が一日楽しく過ごすために必要なものが全て揃っている。もちろん映画館もある。沢山のスクリーンを内包したシネマコンプレックスだ。バラエティに富んだ作品群が一つの建物の中でかかっているので観るものを選びやすいし、大人数で来ても好みに合わせてそれぞれに観ることもできる。ショッピングモールの中にあるから待ち時間の過ごし方にも困らない。いいこと尽くしだ。そんなものが幾つも出来たせいで駅前の映画館はガラガラだ。映画館に限らず、街全体がガラガラだ。あちこち飛び回ることの多い僕は、そんな地方都市を幾つも見てきた。街とともに歴史を作ってきた映画館が量販店や居酒屋、はたまたパチンコ屋さんなんかに姿を変えていっているのは福井だけではない。全国に点在するシャッター街を抱えた駅前が、生き残るために映画を利用するケースはどれだけあるのだろう。でも僕は、駅前で映画を観るというイベントに凄く魅力を感じる。ふらふらと街を歩いて、街中の映画館で映画を一本観て、またふらふらと街を歩き家に帰るという行為にはロマンがあるような気さえする。本来の映画のストーリーに、観た人それぞれのサイドストーリーが加わって作品が完成する感じだ。観た人の数だけストーリーがある……。シネコンで観るよりも豊かな映画鑑賞になる気がする。木川さんの考える、映画も視野に入れた都市作りがどういうものなのか想像もつかなかったが、「妄想福井プロジェクト」に僕も参加したいと思った。 (つづく)