福井県における平成30年のがんの死亡者数は、男性1,415人・女性971人の計2,386人でした。これは死亡数全体の約4分の1を占め、昭和55年以来、連続して第1位になっています。 (出典:福井県がん登録35報)
がんによる死亡者数を減らすためには、がんにならないこと(1次予防)と早期発見・早期治療(2次予防)が大切です。
がんの原因は、タバコ、飲酒、食事、運動不足、体型、感染(肝炎ウイルスによる肝がんやヒトパピローマウイルスによる子宮がん、ピロリ菌による胃がんなど)、遺伝など様々あります。国立がん研究予防センターがん対策情報センターは日本人のデータをに基づいた日本人のためのがん予防法を公表しています。
―現状において日本人に推奨できる科学的根拠に基づくがん予防法―
喫煙 | たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。 |
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飲酒 | 飲むなら、節度のある飲酒をする。 |
食事 | 食事は偏らずバランスよくとる。 * 塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。 * 野菜や果物不足にならない。 * 飲食物を熱い状態でとらない。 |
身体活動 | 日常生活を活動的に過ごす |
体形 | 成人期での体重を適正な範囲に維持する(太りすぎない、やせすぎない) |
感染 | 肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染している場合はその治療の措置をとる。 |
その中でも最も効果があるのは禁煙です。国立がん研究センターがおこなった日本人数万人の追跡調査では胃がん1.7倍、大腸がん1.4倍、肺がん男性4.5倍・女性4.2倍、乳がん1.9倍(閉経前の女性では3.9倍)と、タバコは、肺がんのみならず、多くのがんの危険を増加させます。平成30年の都道府県別年齢調整がん死亡率と平成30年の国民健康栄養調査による都道府県別喫煙率の関係をみてみると、男性では喫煙率の高い県ほどがん死亡率が高いことが分かります。禁煙を抜きにして、がん予防は考えられません。
"酒は百薬の長"などといわれ、少量ならば脳梗塞や心筋梗塞のリスクを下げる効果があるといわれていま。しかしお酒は適量を飲むのが難しく、つい量を過ごしがちですし、大腸がんや乳がんについては少量から、そのリスクが上がるため、注意が必要です。特にお酒を飲んだ時に顔が赤くなる人は、アルコールの分解産物であり、発がん物質でもあるアセトアルデヒドを速やかに分解できないため、無理して飲まないことが大切です。お酒はルールを守って、楽しく飲みましょう。
これさえ摂っていれば、がんを予防することができるという食品は残念ながら、ありません。逆に、摂りすぎるとがんになるとされている食品は多くあるため、偏りのないバランスのよい食事を心がけるのが大事です。特に、塩分を抑えることは、高血圧を予防するのみならず、胃がんの予防にも有効だといわれています。平成26年の都道府県別年齢調整胃がん死亡率と平成26年の国民健康栄養調査による都道府県別食塩摂取量の関係をみてみると、食塩摂取量の多い県ほど胃がん死亡率が高いことが分かります。また、野菜・果物を摂ることは脳卒中・心筋梗塞など生活習慣病予防になるだけではなく、胃がん予防にもなることが分かっています。
令和元年度国民健康栄養調査では、運動習慣のある者の割合は男性で33.4%、女性で25.1%となっており、特に若者で低くなっています。仕事や家事に追われ、運動どころではないという方が多いのではないでしょうか。しかし、特別な運動をしなくても、身体活動量が多いとがんによる死亡が少ないことが分かっています。掃除や洗濯などの家事や通勤時のウオーキングや階段登りなど日常生活の中で、より身体を動かすように工夫しましょう。最近では胸や腰につけておくだけで消費カロリーがわかる活動量計の人気も高まっています。運動不足の時や、たくさん食べすぎた時などには、あとどれくらい体を動かせばよいかの目安になります。
肥満は、糖尿病、高血圧、脂質異常などを伴うことは良く知られていますが、欧米では肥満は食道の腺がん、大腸がん、腎臓がん、乳がん(閉経後)、子宮体がんをはじめ、多くのがんのリスクになるのは確実とされています。日本でも、近年増加している大腸がんと閉経後の乳がんについては肥満がリスクを高めることが分かっています。しかし、欧米ほど肥満の方が多くない日本では、現在のところ、肥満とその他のがんでは、それほど強い関連は示されていません。むしろ、20歳のころと比べて5kg以上の体重減少でがんや循環器疾患での死亡が増えてしまいます。体型を適正に保つ(太りすぎず・やせすぎない)ことが重要です。
ある種の細菌やウイルスはがんの原因となることが分かっています。
肝臓がんの原因となるB型・C型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。出産時の母子感染や、昔受けた予防注射等の医療行為などによる感染が考えられます。知らないうちに感染している場合もあるため、1度は肝炎ウイルス検査を受けておく必要があります。健康福祉センターや市町が委託する医療機関では無料で検査を受けられるようにもなっています。
その他にも子宮頚がんの原因となっているヒトパピローマウイルス(HPV)は、性交渉の経験がある女性の50~80%が感染を経験するといわれているどこにでもいるウイルスです。一旦中断していた子宮頚がん予防ワクチン接種の積極的勧奨が令和4年4月から再開され、多くの人が受けやすくなります。ただし、ワクチンだけではHPV以外の性感染症や全ての子宮頚がん防ぐことはできないため、20歳以降は、定期的にがん検診を受けることが大切です。
ピロリ菌は胃がんの原因の一つと考えられていますが、胃がんに罹りやすい年代の50歳以上の日本人はピロリ菌の感染率が高く、ピロリ菌を除菌して将来の胃がんが予防できるのかどうかが検討されており、平成25年4月からは、ピロリ菌に感染した慢性胃炎に対しても除菌治療が保険適用となりました。
2次予防で大切なことは、がん検診を受けることです。
検診のことをスクリーニングと言いますが、これはふるいに掛けるという意味です。がんの見逃しを恐れてふるいの目を細かくすればがんが多く見つかりますが、同時にがんでない人も多くひっかけてしまいます。がんがないのに陽性とされると、余計な不安や医療費、検査に伴う偶発症など様々な問題が生じます。健常者を対象とするがん検診では、多少、ふるいの目が粗くて、ひっかかるがんの人が減ったとしても、検診を受けることで被る不都合をできるだけ少なくする検査方法が選ばれています。しかし、症状のある人は、病気を持つ可能性や緊急性が高いため、検診ではなく、病院を受診して検査を受けてください。
現在、日本では、受けると死亡率が下がることが確認されている5つのがん検診が、胃がんでは胃X線、肺がんではX線と喀痰細胞診、子宮がんは子宮細胞診、乳がんではマンモグラフィと触診の併用、大腸がんは便潜血検査で行われています。対象年齢は40歳以上で、子宮がんだけは若くしてかかる人たちが増えていることから20歳以上になっています。検診頻度は1年に1回ですが、女性の子宮がんと乳がんは2年に1回となっています。
福井県の5つのがんによる平成30年の死亡者数は1,182人で、がん死亡全体の半数を占めています。しかし、福井県の調査によれば平成31年度の5つのがん検診の平均受診率は42.0%にすぎません。しかもその人たちは健康に気をつけている人たちが多く、健康に気をつけていない残りの7割の人たちが検診を受けていないのです。福井県では検診受診率50%を目標に、平成22年度から、近くのかかりつけ医でも5つのがん検診を受診できる個別がん検診の制度を開始しています。
助かるがんで命をなくさないために、禁煙による1次予防と、積極的な検診受診による2次予防をこころがけましょう。